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光ファイバセンサ概論(6)

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C03_光の散乱

事務局
 光の散乱は、物質に光があたったときに、物質を構成する分子や粒子に光が衝突し、あちこちに反射される現象です。たとえば、大空が青く見えるのは、太陽光線が空気の粒子(分子)に衝突したとき、波長の長い赤い光は透過し、波長が短い青い光は空気を透過できず、あちこちに反射(散乱)するためです。
 この現象を詳しく調べてみると、この散乱は、光の波長よりも小さいサイズの粒子(散乱をおこす粒子はほとんどが空気の分子のみで、太陽光の可視光波長よりも粒子サイズが十分小さい)によるもので、散乱の強さは波長の4乗に反比例することが分かっています。
 イギリスの物理学者レーリー(Rayleigh)卿によりこの現象が説明されたので、レーリー散乱と呼ばれます。レーリー卿は、「気体の密度に関する研究、およびこの研究により成されたアルゴンの発見」により、1904年ノーベル物理学賞を受賞しました。
 さて、レーザ光を光ファイバに入射したときはどんな散乱が起きるのでしょうか? 
 ガラスは二酸化珪素(SiO2)という分子から成り立っています。このSiO2と光の相互作用で、光ファイバ中でもいくつかの散乱が起きています(図1をご覧下さい)。以下で簡単にそれらを紹介します。

図1 
図1 光ファイバ中で発生する散乱光
 
 上述したように、レーリー散乱とは、光の波長よりも小さいサイズの粒子により発生するもので、散乱された光は入射した光と同じ色(同じ周波数)です。
 光ファイバの場合は、構成する分子のミクロな密度・組成揺らぎによるものです。散乱光の強度は波長の4乗に逆比例しますので,長波長ほど小さくなります。また,光ファイバ中で発生する散乱光の中で最も強い散乱光であり,従来から光ファイバの光損失測定や破断点検出に利用されています。

 図2
図2 ラマン散乱光とエネルギの関係

 ラマン散乱は、物質中の分子(SiO2)の振動に起因して散乱される光です。分子の振動エネルギは飛び飛びの値(準位)を有しています。たとえば、山の麓と中腹をイメージして下さい。麓には多くの人々が住んでいますが、中腹には小数の人しか住んでいません。麓から中腹に移動するにはエネルギを補給する必要があります。
 一方、中腹から麓におりるには(重いとスピードがつきすぎてしまうので)少しスリム化する必要があります。エネルギ補給やスリム化は光によって行われます。
 エネルギの補給により光のエネルギは低く(波長が長く)なります(ストークス光)。スリム化では、エネルギの放出により光のエネルギは高く(波長が短く)なります(アンチストークス光)。夏には暑さを避けて中腹に住む人が多くなりますので、夏の方がスリム化をする人も多くなります。極寒では中腹に住む人はいなくなり、スリム化をする人の数は激減します。
 以上のように、ラマン散乱光は入射された光とは異なる波長の光となり、主にアンチストークス光が温度に敏感に影響を受けるので、ラマン散乱光の強度を観測すると温度を計測することができます。
 チャンドラシェーカル・ヴェンカタ・ラマン(Sir Chandrasekhara Venkata Raman)は、「光散乱に関する研究とラマン効果の発見」により、インド本国で研究したインド人研究者としては初めてのノーベル物理学賞を1930年に受賞しました。 

図3
図3 ブリルアン散乱と周波数シフト

 ブリルアン散乱もラマン散乱と同様に物質中の分子(SiO2)の振動に起因して散乱される光ですが、媒質中を伝搬する音響波(媒質中を伝搬する圧力波)による散乱です。
 音響波とは分子の振動による疎密波です。分子が熱的に励起されることで音響波は発生します。音響波は疎密波ですので、光ファイバ中に屈折率の濃淡(回折格子)を形成します。
 この濃淡の周期と光の半波長が一致すると(ブラッグ波長条件を満たすと)、光は進行方向とは逆方向に反射されます。このとき、音響波は移動していますので、そのスピードに応じて、反射光はドップラー効果を受け散乱光の周波数(波長)は上方あるいは下方にシフトします。
 このシフト量は光ファイバの温度や歪に依存して変化しますので、ブリルアン散乱光のスペクトルを観測することで歪や温度を計測することができます。
 また、両端から光を入れるなどして光と音響波の相互作用を利用すると、特定の濃淡周期を有した強い音響波を発生させることができます。この強い音響波に伴う散乱を誘導ブリルアン散乱と言います。
 レオン・ブリルアン(Leon Brillouin)は、古典電気力学、量子力学、固体物理学、統計物理学、および情報理論など非常に広い範囲で活躍しました。ノーベル賞こそ受賞していませんが、ブリルアンの名前がついた物理用語はたくさんあります。 

 読者の皆さんも、新しい散乱現象を見つけてみませんか?

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