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技術紹介《PNCR-相関型OTDR》小松康俊(副理事長((株)渡辺製作所))

2016年7月30日

事務局

1. PNCR-相関型OTDR
 光ファイバの損失や破断点を計測するためのOTDR (Optical Time Domain Reflectometer)では図1に示すようにパルス変調した光源が一般的に用いられています。パルス光が光ファイバに入射すると光ファイバに沿ってレーリー散乱光が発生し一部が後方散乱光として入射側に戻ります。また、光ファイバに破断点などの欠陥があるとフレネル反射光が発生して戻ります。光ファイバの中では光の速度が一定なのでパルス光が入射してから戻るまでの時間と戻り光のレベルを計測すれば散乱光や反射光の発生位置と強度が分かります。
 パルス光を用いる場合、距離方向の位置分解能はパルス幅に依存し、パルス幅を狭くするほど分解能は高くなります。しかし、パルス光のエネルギーはパルス幅に反比例するのでパルス幅を狭くするとパルス光のエネルギーが減少し、SN比が劣化してダイナミックレンジが低下し、測定可能距離が短くなります。

 図1 OTDRのブロック図と応答波形
     図1 OTDRのブロック図と応答波形

 SN比を改善するにはパルス光を強くする、繰り返し測定を行って測定値を平均化処理するという方法が有効ですが、強度の強い光源は高価で、繰り返し測定の場合は測定に長い時間がかかります。例えば、10kmの光ファイバを光が往復するには0.1msの時間がかかるため、100万回測定してSN比を60dB改善するには少なくとも100秒という長い時間がかかります。
 パルス光を用いるOTDRに対し、疑似ランダム信号で変調された光を用いてSN比を改善する方法として相関型OTDR (Correlation OTDR)が知られています。相関型OTDRでは擬似ランダム信号の自己相関関数がパルス波形になることを利用しています。疑似ランダム信号はPN信号と呼ばれ、「1」と「0」のパルスがほぼランダムに続くデジタル信号です。PN信号はPN符号 (Pseudorandom Noise Code) を基に発生しますので、当社では相関型OTDRをPNCR (Pseudorandom Noise Code Reflectometry) と呼んでいます。図2にPNCRのブロック図と応答波形を示します。

図2 PNCRのブロック図と応答波形 
     図2 PNCRのブロック図と応答波形

 PNCRではパルス発生器の代わりにPN信号発生器が用いられ、光源はこの信号でパルスが「1」の時に光り、「0」の時に光らないように変調されます。レーリー散乱光やフレネル反射光は疑似ランダム信号のままの形で戻ってきますが、元のPN信号と相関演算されると擬似ランダム信号はパルス波形となり、パルス光を用いるOTDRと同様の反射応答が得られます。相関演算ではパルス列の信号が全て加算されるため平均化処理も同時に行われることになりSN比が改善されます。また、パルス光を用いる場合のように個々のパルスが光路を往復して戻ってくるのを待って加算するのでなく、相関処理で一気に加算されますので高速に平均化処理ができます。高速化は条件にもよりますがパルス光を用いるOTDRに比べ概ね数100倍にもなります。

2. PNCR (Pseudorandom Noise Code Reflectometry)      
2.1 相関処理の原理
 長さLの光ファイバを考え、一端からPN信号で変調された光が入射しているとします。PN信号の周期を T=nΔ とします。ここで、Δ はPN信号のパルス1個の幅で、n は符号長です。入射した光は、光ファイバ内部でのレーリー散乱あるいはフレネル反射により後方散乱光として入射端に戻ってきます。入射端に戻った光をもとのPN信号と相関演算する場合について考えてみます。
 上述のように光源は、「1」の時に光源が光り、「0」の時に光らないように変調されています。さらに、戻ってきた光信号と相関演算をするPN信号は 「1」と「0」を「1」と「-1」に置き換えます。そして戻り光と元のPN信号のすべてのパルスをそれぞれ掛け合わせます。かけ合わせた結果 「1」と「0」と「-1」の並びが得られます。次に並んだ「1」と「0」と「-1」を全て足し合わせます。以上が相関演算の処理です。こうすることにより、相関演算の結果は図3のようになります。τ(タウ) は戻ってきた光信号と相関演算するPN信号との時間差すなわちビットのずれに相当します。

図3 光源を変調する場合の相関演算結果      
     図3 光源を変調する場合の相関演算結果

 相関演算の結果、符合長に等しい周期で三角形のパルスが現れます。ピークの時は光信号の全ての「1」がPN信号の「1」と、光信号の全ての「0」がPN信号の「-1」と掛け合わされます。この三角形のパルスをOTDRのパルス光と同じように利用することができます。パルス方式のOTDRの場合には計測対象の光ファイバに2個のパルスが同時に存在すると計測エラーが生じます。PNCRでも同様にTは計測する光ファイバを光が往復する時間 2L/vgより長くなければなりません。ここでvgは光ファイバ内での光の群速度です。
 OTDRの空間分解能についてもパルス光源を使ったOTDRと同様に考えることができます。即ち、光ファイバの全長を光の入射端から長さδ=Δvg/2の微小区間で区切ったと仮定すると、それぞれの微小区間からの反射を、その微小区間の中央に反射点が集中していると見なすことができます。即ち、空間分解能はδ=Δvg/2となります。
 図4にPN信号を用いたOTDRの動作を、フレネル反射を例に示します。1段目が光源を変調する基になるPN信号です。変調された光がファイバに入射されます。このとき変調の周波数特性は無視します。変調された光はファイバ内の欠陥などで反射されます。反射のポイントを2段目に反射イベントとして示します。反射イベントは3か所あり、それぞれ入射端からの距離と反射レベルが異なっています。最初の反射イベントからの反射光を反射波1として3段目に示し、2番目、3番目からの反射光を反射波2、反射波3として4段目、5段目に示します。それぞれの反射波は反射イベントの位置から始まり反射レベルに比例した強さを持っています。これらの反射波は合成されて6段目に示す合成波となって入射端に戻ります。合成波を見ると分かるように合成されたPN信号は非常に複雑な波形となっています。この合成波と元のPN信号と相関演算をしますと、最下段にしめすように反射イベントに対応した信号を得ることができます。

 図4 PN信号を用いたOTDRの動作例
     図4 PN信号を用いたOTDRの動作例

2.2 SN比の改善
 さて、相関演算によって雑音が低減されSN比が向上することを説明しましょう。この場合は平均化処理の考え方を用いると理解が容易です。即ち、PN信号のパルスごとに雑音が加わっていると考えます。そうすると、相関演算により雑音が平均化されることが分かります。平均化による雑音の改善は√n であることが知られています。一方、図3からパルスのピーク値が (n+1)/2n ですからSN比の改善は n が大きいときには次のようになります。
                √n(n+1)/2n ≒ √n/2


(株)渡辺製作所のホームページは こちら

PNCR相関型OTDRのカタログは こちら


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